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抵当権の消滅

抵当権の消滅 | 行政書士の道

抵当権の消滅

行政書士試験重要 民法 担保物権 抵当権

抵当権の消滅とは:抵当権が法的に効力を失うことをいいます。主に4つの原因があり、それぞれ異なる要件と効果を持ちます。

1. 抵当権消滅の概要

抵当権は担保物権の一種として、債権者の債権を保証する重要な権利ですが、一定の事由により消滅することがあります。民法では、抵当権の消滅について複数の規定を設けています。

抵当権消滅の4つの原因 ① 代価弁済(378条) ② 抵当権消滅請求(379条) ③ 目的物の取得時効 ④ 目的たる用益物権の放棄 共通の効果 抵当権が消滅し、抵当不動産の負担が軽減される
図1: 抵当権消滅の4つの原因と共通効果

2. 代価弁済(378条)

民法第378条(代価弁済)
抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者に対してその抵当権者が有する債権の弁済をしたときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。

代価弁済とは、抵当不動産を買い受けた第三者が、抵当権者に対して被担保債権を弁済することにより、抵当権を消滅させる制度です。

【代価弁済の具体例】

Step 1: Aさんが銀行から1000万円を借り、自宅に抵当権を設定

Step 2: BさんがAさんから抵当権付きの自宅を800万円で購入

Step 3: Bさんが銀行に対して残債務1000万円を弁済

Step 4: 抵当権が消滅し、Bさんは負担のない所有権を取得

代価弁済のポイント:

  • 第三者(買受人)が自発的に弁済する制度
  • 抵当権者は弁済を拒否できない
  • 弁済により抵当権は確定的に消滅

3. 抵当権消滅請求(379条)

民法第379条(抵当権消滅請求)
抵当不動産の第三取得者は、抵当権者に対し、抵当権消滅請求をすることができる。

抵当権消滅請求は、抵当不動産を取得した第三者が、一定の手続きに従って抵当権の消滅を請求する制度です。代価弁済と異なり、請求手続きが必要です。

比較項目 代価弁済(378条) 抵当権消滅請求(379条)
請求者 所有権取得者
地上権取得者
なし(弁済する)
なし(弁済しない)
無限取得者 なし(弁済する) なし(弁済しない)
主たる債務者・保証人・これらの承継人 なし(弁済する) なし(弁済しない)
請求者 抵当権者 第三取得者
効果 抵当権が消滅する
表1: 代価弁済と抵当権消滅請求の対象者比較

重要な違い:表からわかるように、所有権取得者と地上権取得者は代価弁済ができますが、抵当権消滅請求はできません。一方、無限取得者などは両方の制度を利用できません。

抵当権の消滅時効

なお、債権者は、債権者が消滅請求(396条)よりも時効によって消滅しません(396条)。これは、消滅時効における付従性を定めたものですので、債務者および抵当権設定者との関係では、被担保債権が消滅しないのに抵当権だけが時効によって消滅することはありません。

民法第396条
抵当権は、債権と分離して譲り渡し、又は他の債権に担保として供することができない。

4. 目的物の取得時効による消滅

債務者または抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権はこれによって消滅します(397条)。

民法第397条
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。
【取得時効による消滅の例】

Cさんの土地にDさんが抵当権を設定していたが、第三者のEさんが20年間平穏・公然・善意・無過失でその土地を占有し続けた場合、Eさんは取得時効により所有権を取得し、同時に抵当権も消滅します。

※ この場合、抵当権者は除斥期間内(20年の消滅時効完成から5年以内)に消滅異議を申し立てることができます。

重要判例(最高裁昭和44年7月18日):
抵当権の目的物について第三者が取得時効を完成させた場合、抵当権は当然に消滅するのではなく、時効援用により消滅するとされています。

5. 目的たる用益物権の放棄

地上権または永小作権を抵当権の目的とした地上権者または永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができません(398条)。

民法第398条
地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない。

なぜ、抵当権の目的…
この規定は、抵当権を設定した者が勝手に権利を放棄することで抵当権者の担保を害することを防ぐためです。ただし、抵当権者に対抗できないだけで、放棄自体は有効です。

6. 代価弁済と抵当権消滅請求の詳細比較

代価弁済

・第三者から抵当権者へ

・弁済により即座に消滅

VS

抵当権消滅請求

・第三者から請求手続き

・一定の手続きが必要

項目 代価弁済 抵当権消滅請求
主体 所有権・地上権の第三取得者 抵当不動産の第三取得者
手続き 弁済するだけ 請求→審査→決定
抵当権者の対応 弁済を受領する義務 競売か受諾かを選択
効果の発生時期 弁済時に即座に消滅 手続き完了時に消滅

7. 具体例で理解する

【総合的な事例】

事実関係:

  • Aさんは自己所有の土地にBさんから1500万円を借り、抵当権を設定
  • その後、Cさんがその土地を1200万円で購入
  • 借入残高は1000万円

Cさんの選択肢:

選択肢1(代価弁済): CさんがBさんに1000万円を弁済→抵当権即座に消滅

選択肢2(抵当権消滅請求): Cさんが適正な価額を算定し、消滅請求手続きを行う

選択肢3(そのまま): 抵当権付きのまま土地を保有(リスクあり)

実務上のアドバイス:第三取得者にとって、代価弁済は確実に抵当権を消滅させられる方法ですが、債権額全額を弁済する必要があります。一方、抵当権消滅請求は手続きは複雑ですが、適正価額での処理が可能な場合があります。

8. まとめ

抵当権消滅の要点まとめ:

  1. 代価弁済(378条):第三取得者が債権者に弁済することで抵当権を消滅させる
  2. 抵当権消滅請求(379条):第三取得者が一定の手続きにより抵当権の消滅を請求する
  3. 取得時効による消滅:第三者の取得時効完成により抵当権が消滅する
  4. 用益物権の放棄:地上権・永小作権の放棄は抵当権者に対抗できない

試験対策のポイント:

  • 代価弁済と抵当権消滅請求の対象者の違いを正確に覚える
  • 各制度の手続きと効果の相違点を理解する
  • 判例の知識も併せて押さえておく
  • 具体的な事例問題に対応できるよう実務的な理解を深める

※この解説は行政書士試験対策を中心としていますが、実務においても重要な知識です。不明な点があれば、さらに詳しい解説や判例研究も参考にしてください。

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