「行政書士試験」まで
あと 134

物理的請求権とは

物理的請求権の解説 | 行政書士の道

物理的請求権とは?具体例でわかりやすく解説

行政書士試験頻出 物権 請求権 民法

物理的請求権の定義:物権の内容を実現するために、第三者による妨害を排除したり、物の返還を求めたりするために認められる権利のことです。物権的請求権とも呼ばれます。

1. 物理的請求権の基本概念

物理的請求権(物権的請求権)とは、所有権や地上権などの物権を持つ者が、その物権の内容を実現するために認められる請求権です。物権は排他的な支配権であるため、その内容を実現するための手段として、第三者による侵害を排除する権利が必要となります。

物理的請求権 返還請求権 妨害排除請求権 妨害予防請求権 共通特徴:善意・無過失は抗弁にならない(無過失責任)
図1: 物理的請求権の基本構造と種類

試験対策ポイント:物理的請求権を理解する際の重要ポイントは、「物権の排他的支配性から認められる権利」であるということです。また、物理的請求権は条文上に明文の規定はありませんが、判例・学説上確立した制度として認められています。

2. 物理的請求権の種類

物理的請求権は、侵害態様や請求内容によって3つの種類に分けられます。

物理的請求権の3種類 ① 返還請求権 物の占有者 物権者 返還 ② 妨害排除請求権 継続的に妨害している者 物権者 妨害排除 ③ 妨害予防請求権 将来妨害するおそれがある者 物権者 予防措置
図2: 物理的請求権の3種類と請求の方向性

2.1 返還請求権

返還請求権の定義:物の所有者が、自己の所有物を不法に占有している者に対して、その物の返還を請求する権利です。

返還請求権は、所有者から物の占有が奪われている場合に行使されます。例えば、所有者から物が盗まれた場合や、貸した物が返却されない場合などに行使されます。

民法上の根拠:明文の規定はありませんが、所有権の内容(民法第206条)から当然に認められると解されています。

2.2 妨害排除請求権

妨害排除請求権の定義:物権者が、その物権の行使を妨げられている場合に、妨害している者に対して、その妨害の排除を請求する権利です。

妨害排除請求権は、物権の行使が継続的に妨げられている状態を解消するために行使されます。例えば、他人が自分の土地に無断で建物を建てた場合や、隣人の木の枝が自分の土地に越境している場合などに行使されます。

2.3 妨害予防請求権

妨害予防請求権の定義:物権者が、将来その物権の行使が妨げられるおそれがある場合に、予防措置を請求する権利です。

妨害予防請求権は、まだ妨害は発生していないが、将来妨害が発生する蓋然性が高い場合に行使されます。例えば、隣地に建設中の建物が倒壊する危険がある場合などに行使されます。

3. 物理的請求権の成立要件

物理的請求権が成立するためには、以下の要件を満たす必要があります:

物理的請求権の成立要件 ① 請求者が物権を有していること ② 物権の行使が妨げられていること(または妨害のおそれ) ③ 被請求者が妨害者または占有者であること ※ 被請求者の故意・過失は不要(無過失責任)
図3: 物理的請求権の成立要件

重要ポイント:物理的請求権の最大の特徴は、被請求者の故意・過失を問わない点(無過失責任)です。被請求者が善意・無過失であっても、物権の侵害または妨害があれば請求の対象となります。

4. 具体例で理解する物理的請求権

【具体例1】返還請求権

Step 1: Aさんは自分の所有する自転車をBさんに1週間貸しました。

Step 2: 約束の1週間が経過しましたが、Bさんは自転車を返しません。

Step 3: AさんはBさんに対して、所有権に基づく返還請求権を行使し、自転車の返還を求めることができます。

Step 4: BさんがCさんに無断で自転車を譲渡していた場合、AさんはCさんに対しても返還請求権を行使できます(Cさんが善意・無過失であっても)。

【具体例2】妨害排除請求権

Step 1: Dさんの所有する土地に、隣人Eさんの建物の一部が越境しています。

Step 2: 越境部分によって、Dさんは土地の一部を自由に使用できない状態です。

Step 3: DさんはEさんに対して、所有権に基づく妨害排除請求権を行使し、越境している建物部分の撤去を求めることができます。

Step 4: Eさんが「測量ミスで過失はなかった」と主張しても、無過失責任なので妨害排除義務を免れません。

【具体例3】妨害予防請求権

Step 1: Fさんの隣地でGさんが建物を建築中ですが、その建物は明らかに不安定で倒壊の危険があります。

Step 2: まだ実際の被害は発生していませんが、将来的にFさんの土地に被害が及ぶ可能性が高いです。

Step 3: FさんはGさんに対して、所有権に基づく妨害予防請求権を行使し、補強工事や安全対策の実施を求めることができます。

5. 判例で見る物理的請求権

判例 主な争点 判決の要旨
大審院大正7年5月9日判決 地下水に対する所有権 地下水への所有権が認められ、地下水脈を破壊する行為に対して物権的請求権を行使できる
最高裁昭和47年6月2日判決 建物の日照妨害 受忍限度を超える日照妨害は物権的請求権の対象となる
最高裁平成9年12月18日判決 騒音による生活妨害 受忍限度を超える騒音は物権的請求権の対象となりうる
最高裁平成16年12月18日判決 抵当権に基づく妨害排除請求 抵当権者も物権的請求権を行使できることを認めた
【重要判例】最高裁昭和47年6月2日判決(日照権事件)

建物の新築により隣家の日照が著しく妨げられた事案で、最高裁は「土地所有者は、相隣関係における調和の理念に基づく一定の限度内において、相隣者の日照を妨げないよう義務を負う」と判示し、受忍限度を超える日照妨害に対して妨害排除請求を認めました。

重要性:この判例により、物理的請求権の対象が拡大され、環境権的な利益も保護対象となりました。

6. 債権的請求権との違い

物理的請求権と債権的請求権は、どちらも権利者の請求権ですが、その性質や効力に大きな違いがあります。

比較項目 物理的請求権 債権的請求権
根拠 物権(支配権) 債権(請求権)
対象 世界中の誰に対しても主張可能 特定の債務者に対してのみ
要件 相手の故意・過失は不要(無過失責任) 原則として故意・過失が必要(過失責任の原則)
時効 原則として消滅時効にかからない 消滅時効にかかる
所有物の返還請求、越境建物の撤去請求 売買契約に基づく引渡請求、損害賠償請求

重要な違い:

  1. 物理的請求権は「物権の内容を実現するための権利」であり、世界中の誰に対しても主張できます(対世的効力)。
  2. 債権的請求権は「特定の債務者に対する請求権」であり、契約の相手方など特定の人にのみ主張できます(相対的効力)。
  3. 物理的請求権は、相手の故意・過失を問いません(無過失責任)。
  4. 債権的請求権は、原則として相手の故意・過失が必要です(過失責任の原則)。

債権的請求

特定の債務者のみに請求可能

物理的請求

誰に対しても請求可能

支配権実現

物権の排他的支配を確保

7. 過去問で見る物理的請求権

【平成29年度 問6】

物権的請求権に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものはどれか。

  1. 所有権に基づく物権的請求権は、明文の規定があるため認められる。
  2. 債権者代位権の行使として、債務者の有する所有権に基づく返還請求権を行使することはできない。
  3. 建物の賃借人は、みだりに日照・通風を奪われない利益を有し、これを侵害された場合には、その侵害行為の差止めを請求することができる。
  4. 地上権者は、地上権に基づく物権的請求権を行使することができない。

正解:3

解説:

選択肢1は誤りです。物権的請求権は明文の規定はありませんが、物権の排他的支配性から当然に認められる権利です。

選択肢2は誤りです。判例上、債権者代位権の行使として、債務者の有する所有権に基づく返還請求権を行使することができるとされています。

選択肢3は正しいです。最高裁判例において、賃借人も日照・通風など生活利益を有し、受忍限度を超える侵害に対しては差止請求ができるとされています。

選択肢4は誤りです。地上権者も物権者であるため、地上権に基づく物権的請求権を行使することができます。

【令和元年度 問7】

物権的請求権に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものはどれか。

  1. 所有権に基づく妨害排除請求権の行使は、当該妨害行為をした者に故意又は過失がある場合に限られる。
  2. 抵当権者は、目的不動産の所有者が目的不動産を不法占拠されている場合であっても、抵当権に基づく妨害排除請求権を行使することはできない。
  3. 所有権に基づく妨害予防請求権は、将来発生する損害を賠償させることを目的とする制度である。
  4. 所有権に基づく返還請求権は、債権者代位権の目的となる。

正解:4

解説:

選択肢1は誤りです。物権的請求権は無過失責任であり、相手方の故意・過失は要件ではありません。

選択肢2は誤りです。最高裁平成11年判決により、抵当権者も物権的請求権を行使できることが認められています。

選択肢3は誤りです。妨害予防請求権は将来の妨害を予防するための制度であり、損害賠償を目的とするものではありません。

選択肢4は正しいです。判例上、債務者の有する所有権に基づく返還請求権は、債権者代位権の目的となることが認められています。

試験対策ポイント:物理的請求権の問題では、「無過失責任であること」「対世的効力があること」「物権であれば所有権以外でも認められること(地上権、抵当権など)」がよく問われます。

8. まとめ

  1. 物理的請求権(物権的請求権)とは、物権の内容を実現するために認められる権利です。
  2. 物理的請求権には、返還請求権、妨害排除請求権、妨害予防請求権の3種類があります。
  3. 物理的請求権の最大の特徴は、「無過失責任」であることです。相手の故意・過失を問わず、客観的に物権が侵害されていれば請求できます。
  4. 物理的請求権は明文の規定はありませんが、物権の排他的支配性から当然に認められると解されています。
  5. 所有権だけでなく、地上権、抵当権などすべての物権について認められます。
  6. 物理的請求権と債権的請求権の最大の違いは、「対世的効力」と「相対的効力」の違いです。

行政書士試験対策のポイント:物理的請求権は民法総則・物権分野の重要論点です。特に「無過失責任であること」「対世的効力」「判例の展開」を中心に理解しておきましょう。また、債権的請求権との違いもよく出題されるので、比較して理解しておくことが重要です。

※内容について質問や補足があれば、コメント欄にお寄せください。関連する物権法の解説も合わせてご覧いただくと理解が深まります。

0 0 votes
Article Rating
Subscribe
Notify of
guest

0 Comments
Oldest
Newest Most Voted
Inline Feedbacks
View all comments
上部へスクロール
0
Would love your thoughts, please comment.x
()
x