目次
1. 持分会社の意義
①持分会社の定義と種類
ポイント:持分会社は合名会社・合資会社・合同会社の総称で、出資者である社員が持分を持ちます。
具体例
株式会社では「株主」と呼ばれますが、持分会社では「社員」と呼ばれます。A、B、Cの3人が合同会社を設立した場合、3人とも「社員」となり、それぞれが会社に対する持分(権利)を持ちます。株式会社の「株式」に相当するのが「持分」です。
②持分の構造
ポイント:持分は1人1個で、大きさは均一ではありません。
具体例
D合同会社で、社員Eが1000万円、社員Fが500万円、社員Gが300万円出資した場合、各自の持分は1個ずつですが、持分の価値(大きさ)は出資額に応じて異なります。株式会社なら「1000株、500株、300株」となりますが、持分会社では「1個、1個、1個」です。
③合名会社の責任体系
ポイント:合名会社の社員は、全て直接無限責任社員です。
具体例
H合名会社が1億円の借金を抱えて倒産した場合、社員I(出資額100万円)も社員J(出資額50万円)も、それぞれ個人財産から1億円全額の返済義務を負います。「出資額までしか責任を負わない」ということはありません。
④合資会社の責任体系
ポイント:合資会社には、直接無限責任社員と直接有限責任社員の両方が存在します。
具体例
K合資会社で、社員L(無限責任)が経営を担当し、社員M(有限責任)が資金提供のみを行う場合、会社が倒産すると、Lは個人財産から全額返済義務を負いますが、Mは出資額の範囲内でしか責任を負いません。
⑤合同会社の責任体系
ポイント:合同会社の社員は、全て間接有限責任しか負いません。
具体例
N合同会社(LLC)の社員全員は、出資額の範囲内でしか責任を負いません。社員O(出資額200万円)は、会社が巨額の借金を抱えても、最大200万円の損失で済みます。この点で株式会社の株主と同じです。
2. 持分会社の社員
⑥有限責任社員の出資制限
ポイント:直接有限責任社員や間接有限責任社員の出資は、金銭その他の財産に限定されています。
具体例
P合資会社の有限責任社員や、Q合同会社の社員は、現金1000万円や土地・建物での出資は可能ですが、「営業のノウハウを提供します」「経営を手伝います」といった労務出資はできません。
⑦無限責任社員の出資範囲
ポイント:直接無限責任社員は、労務や信用による出資もできます。
具体例
R合名会社の社員Sは、現金500万円の代わりに「10年間の経営経験」や「業界での信用・人脈」を出資として提供できます。無限責任を負う代わりに、出資の自由度が高くなっています。
⑧出資義務の履行時期
ポイント:直接無限責任社員や直接有限責任社員は、会社設立時に出資義務を履行する必要はありません。
具体例
T合名会社設立時、社員Uが「1000万円出資します」と約束しても、設立日に現金を用意する必要はありません。後日、会社の必要に応じて出資すれば足ります。株式会社とは異なる柔軟な仕組みです。
⑨持分譲渡の制限
ポイント:持分譲渡には原則として他の社員全員の承諾が必要ですが、業務執行をしない有限責任社員は業務執行社員全員の承諾で足ります。
具体例
V合資会社で、無限責任社員Wが持分を他人に譲渡したい場合、全社員の同意が必要です。しかし、業務に関与しない有限責任社員Xの場合は、業務執行社員(通常は無限責任社員)全員の同意があれば譲渡できます。
⑩払戻請求権と退社
ポイント:持分会社の社員は、出資した金銭等の払戻しを請求でき、払戻しを受けて退社することもできます。
具体例
Y合同会社の社員Zが「事業から手を引きたい」と考えた場合、出資した500万円(または評価額)の返還を請求して退社できます。株式会社では株式を売却する必要がありますが、持分会社では会社からの払戻しが可能です。
3. 持分会社の管理
⑪定款変更の要件
ポイント:持分会社の定款を変更するには、原則として総社員の同意が必要です。
具体例
AA合同会社(社員5名)が事業目的を変更したい場合、5名全員の同意が必要です。株式会社では株主総会の特別決議(3分の2以上)で足りますが、持分会社はより厳格で、1人でも反対すれば変更できません。
⑫業務執行と代表権
ポイント:持分会社では、原則として各社員が業務を執行し、会社を代表します。業務執行社員は善管注意義務を負います。
具体例
BB合名会社の社員CC、DD、EEは、それぞれが会社の業務を行い、取引先と契約を結ぶ権限を持ちます。ただし、社員として一般人以上の注意(善管注意義務)で業務を行う必要があり、怠慢があれば損害賠償責任を負います。
⑬調査権の認定
ポイント:定款で一部の社員だけを業務執行社員とした場合、業務執行権のない社員には調査権が認められます。
具体例
FF合同会社で、社員GGのみが業務執行社員に指定され、社員HH、IIは業務執行権を持たない場合、HHとIIは「会社の帳簿を見せてください」「この取引の詳細を教えてください」と調査する権利があります。投資家としての地位を保護する仕組みです。
まとめ
持分会社は株式会社と比べて人的結合の色彩が強く、社員間の信頼関係を重視した会社形態です。合名・合資・合同の3つの形態は責任の範囲が異なりますが、いずれも定款変更には全員同意が必要など、株式会社より厳格な面があります。一方で、出資の柔軟性や払戻請求権など、株式会社にはない特徴も持っています。行政書士試験では、各会社形態の責任体系と権利関係を正確に区別することが重要です。