目次
1. 発起設立と募集設立
①設立方法の違い
ポイント:発起設立では発起人が全株式を引き受け、募集設立では発起人が一部を引き受けて残りを公募します。
具体例
発起設立:A、B、Cの3人が株式会社D商事を設立。発行株式1000株を3人で全て引き受け(A:500株、B:300株、C:200株)。
募集設立:同じくA、B、Cが設立するが、3人で600株のみ引き受け、残り400株は一般投資家から募集する。
②発起人の定義
ポイント:発起人は、定款に発起人として署名した者です。
具体例
E株式会社の設立で、定款の最後に「発起人 田中太郎 印」「発起人 佐藤花子 印」と署名・押印した田中氏と佐藤氏が発起人となります。口約束で「設立に協力する」と言っただけでは発起人になりません。
③設立賛助者の責任
ポイント:株式募集文書に設立賛助者として記載することを承諾した者は、発起人と同様の責任を負います。
具体例
F株式会社の募集設立で、著名な経営者G氏が「設立賛助者」として募集文書に名前を貸した場合、G氏は実際に出資していなくても、発起人と同じ責任(設立失敗時の費用負担など)を負うことになります。
2. 定款作成・会社財産形成・機関選任
④設立時取締役の就任資格
ポイント:法人でない発起人は、設立時取締役に就任できます。
具体例
個人のH氏が発起人になっている場合、H氏は設立時取締役に就任可能です。ただし、法人(I株式会社など)が発起人の場合は、その法人自体は取締役になれません(法人の代表者が個人として就任することは可能)。
⑤発起人の株式引受義務
ポイント:発起人は、設立に際して設立時発行株式を1株以上引き受けなければなりません。
具体例
J株式会社の発起人K氏は、最低でも1株は引き受ける必要があります。「設立だけ手伝うが出資はしない」ということはできません。発起人になる以上、必ず株主にもなる必要があります。
⑥株主への転換
ポイント:出資を履行した発起人は、会社成立時に株主になります。
具体例
L株式会社の発起人M氏が500万円を出資して100株を引き受けた場合、実際に500万円を払い込むことで、会社成立と同時に100株を持つ株主となります。出資の約束だけでは株主になれません。
⑦出資履行の催告と失権
ポイント:出資を履行しない発起人には催告を行い、期日までに履行しなければ株主となる権利を失います。
具体例
N株式会社の発起人O氏が300万円の出資を約束したが支払わない場合、他の発起人は「○月○日までに300万円を払い込んでください」と催告します。期限を過ぎても払わなければ、O氏は株主になれず、引き受けた株式も無効になります。
⑧募集株式引受人の失権
ポイント:募集株式の引受人が失権しても、設立に際し出資される財産の価額または最低額を満たしていれば、設立手続を続行できます。
具体例
P株式会社の募集設立で、資本金3000万円を予定していたが、一般投資家Q氏(500万円引受予定)が出資しなかった場合でも、最低資本金(通常は1円だが、定款で最低額を定めることもある)を満たしていれば設立を続行できます。
⑨発起設立での役員選任
ポイント:発起設立であれば、発起人が役員を選任します。
具体例
R株式会社を発起設立する場合、発起人S、T、Uの3人が話し合って「取締役はS氏とT氏、監査役はU氏」と決めます。株主総会はまだ存在しないので、発起人が直接決定します。
⑩募集設立での役員選任
ポイント:募集設立なら、創立総会が招集され、創立総会の決議によって役員が選任されます。
具体例
V株式会社を募集設立する場合、発起人と株式引受人全員が参加する創立総会を開催し、多数決で役員を選任します。「取締役候補は○氏、賛成の方は挙手を」という形で民主的に決定します。
⑪設立関係者の損害賠償責任
ポイント:発起人・設立時取締役・設立時監査役は、設立について任務を怠れば会社に対し損害賠償責任を負い、責任免除には総株主の同意が必要です。
具体例
W株式会社の発起人X氏が、設立手続きでミスを犯し会社に100万円の損害を与えた場合、X氏は100万円の賠償責任を負います。この責任を免除するには、株主全員の同意が必要で、一部の株主が反対すれば免除できません。
3. 会社の成立
⑫設立登記の効力
ポイント:本店所在地で設立登記をすると、会社は成立します。
具体例
Y株式会社の本店が東京都渋谷区にある場合、渋谷区を管轄する東京法務局に設立登記申請を行います。登記が完了した日(通常は申請日)に、Y株式会社は正式に法人として成立し、法人格を取得します。
⑬設立不成立時の責任
ポイント:株式会社が成立しなかった場合、発起人が連帯して責任を負い、設立に関して支出した費用を負担します。
具体例
Z株式会社の設立が何らかの理由で失敗し、設立費用として300万円が支出されていた場合、発起人A、B、Cは連帯して300万円の支払義務を負います。「私は100万円分だけ」ということはできず、債権者は任意の発起人に全額請求できます。
まとめ
株式会社の設立は、発起設立と募集設立で手続きが異なります。発起設立は少数での設立に適し、募集設立は多くの資金を集める大規模な設立に適しています。いずれの方法でも、発起人は重い責任を負い、設立手続きには細心の注意が必要です。設立登記によって初めて会社が成立するという点も重要なポイントです。行政書士試験では、各段階での権利義務関係と責任の所在を正確に理解することが求められます。