行政書士試験で重要な募集株式の発行と新株予約権について、決議要件から差止請求まで頻出ポイントを具体例で分かりやすく解説します。
1. 募集株式の発行
①募集株式の定義
ポイント:募集に応じて株式引受けの申込みをした者に割り当てる株式を募集株式といいます。
具体例
A株式会社が事業拡大のため資金調達を行う際、「新株1000株を1株5万円で募集します」と公告。この募集に応じてB投資家が100株、C投資家が200株の引受けを申し込んだ場合、B投資家に100株、C投資家に200株を割り当てる株式が「募集株式」です。
②募集事項の決定権限
ポイント:募集株式の数・払込期日・払込金額またはその算定方法などの募集事項は、株主総会の特別決議で決定します。
具体例
D株式会社(非公開会社)が新株発行を行う場合、株主総会で議決権の3分の2以上の賛成により「募集株式500株、1株3万円、払込期日○月○日」などの募集事項を決定します。取締役会だけでは決定できず、株主の意思を重視した慎重な手続きが必要です。
③公開会社の特例
ポイント:公開会社なら、募集事項の決定は、払込金額が引き受ける者に特に有利な場合を除き、取締役会の決議でよいです。
具体例
E株式会社(東証上場の公開会社)が時価5000円の株式を4800円で募集する場合、取締役会の決議で決定できます。しかし、同じ株式を1000円という著しく安い価格で特定の者に発行する場合は、株主総会の特別決議が必要です。既存株主の利益を保護する仕組みです。
④株主への通知義務
ポイント:株主に募集株式の割当てを受ける権利を与える場合、会社は申込期日の2週間前までに株主に募集事項や割当数などを通知する必要があります。公告では代用できません。
具体例
F株式会社が既存株主に新株の優先引受権を与える場合、株主G氏、H氏、I氏それぞれに個別に「○月○日までに申込みください。あなたの割当予定数は50株です」と通知する必要があります。新聞やホームページでの公告だけでは不十分で、確実に各株主に情報が届くよう個別通知が義務付けられています。
⑤引受申込みの方法
ポイント:募集株式引受けの申込みは、書面で行います。ただし、会社の承諾を得れば、電磁的方法で行うこともできます。
具体例
J株式会社の募集株式に申し込むK氏は、原則として紙の申込書に署名・押印して提出する必要があります。ただし、J社が「メールでの申込みも受け付けます」と事前に承諾していれば、K氏はメールで申込むことも可能です。重要な手続きなので慎重性を重視しています。
⑥株主となる時期
ポイント:募集株式の引受人が払込期日までに払込金額全額を払い込むと、払込期日に引受人は株主になります。
具体例
L株式会社の募集株式(1株2万円、100株、払込期日6月30日)を引き受けたM氏が、6月29日に200万円を払い込んだ場合、M氏は6月30日に株主となります。払込みが7月1日になると、引受けは失効し、株主にはなれません。払込期日の厳守が重要です。
⑦差止請求権
ポイント:募集株式の発行が法令・定款に違反し、または著しく不公正な方法のため、これによって不利益を受けるおそれのある株主は、会社に対してその差止めを請求できます。
具体例
N株式会社が時価1万円の株式を特定の者に5000円で大量発行しようとする場合、既存株主O氏は「この発行により私の持株比率が不当に希釈される」として裁判所に差止めを請求できます。著しく不公正な新株発行から既存株主を保護する制度です。
2. 新株予約権
⑧新株予約権者となる時期
ポイント:新株予約権と引換えに金銭の払込みが必要な募集新株予約権を発行する場合、申込者は割当日に新株予約権者となります。
具体例
P株式会社が「1個1万円の新株予約権1000個を募集、割当日7月15日」として発行する場合、Q氏が100個(100万円)の申込みをし、割当日までに100万円を払い込むと、Q氏は7月15日に新株予約権者となります。まだ株主ではありませんが、将来株式を取得する権利を得ます。
⑨新株予約権発行の差止請求
ポイント:募集新株予約権の発行が法令・定款に違反、または著しく不公正な方法のため、これによって不利益を受けるおそれのある株主は、会社に対して差止めを請求できます。
具体例
R株式会社が著しく有利な条件(時価1万円の株式を3000円で取得できる新株予約権)を特定の第三者に大量発行しようとする場合、既存株主S氏は「将来的に大幅な株式希釈が生じる」として差止請求できます。新株予約権も将来の株式発行につながるため、同様の保護が必要です。
⑩新株予約権行使と株主資格取得
ポイント:新株予約権者が新株予約権を行使すると、行使日に株主となります。
具体例
T氏が保有する新株予約権(1株5000円で100株取得可能、行使期間内)を9月10日に行使し、50万円を払い込んだ場合、T氏は9月10日に100株の株主となります。それまでは新株予約権者であり、株主としての権利(議決権、配当請求権など)はありませんでした。