行政書士試験で重要な資本金・準備金制度について、剰余金配当の仕組みから分配可能額の計算まで頻出ポイントを具体例で分かりやすく解説します。
1. 資本金・準備金
①資本金の定義
ポイント:資本金とは、原則として、設立または株式の発行に際して、株主となる者が会社に払込みまたは給付をした財産の額です。
具体例
A株式会社の設立時に、株主B氏が1000万円、株主C氏が500万円を払い込んだ場合、資本金は1500万円となります。また、設立後にD氏が新株引受けで300万円を払い込めば、資本金は1800万円に増加します。資本金は会社の基礎的な財産として、債権者保護の機能を果たします。
②準備金の目的
ポイント:準備金とは、企業の健全な発達と会社債権者保護のために、積み立てておくべきものです。
具体例
E株式会社が業績好調で1000万円の利益を上げた場合、全額を配当に回すのではなく、一部を準備金として積み立てます。これにより、将来の業績悪化時の資金確保や、債権者への支払い能力を維持できます。準備金は会社の安定性を示す重要な指標です。
③準備金の種類
ポイント:準備金には、資本準備金と利益準備金があります。
具体例
資本準備金:F株式会社が時価1万円の株式を1万2000円で発行した場合、1万円は資本金、2000円は資本準備金となります。
利益準備金:同社が配当を行う際、配当額の10分の1(資本準備金と利益準備金の合計が資本金の4分の1に達するまで)を利益準備金として積み立てる必要があります。
④剰余金の資本組入れ
ポイント:株主総会の決議によって、剰余金を減少させて、それを資本金・準備金に組み入れることができます。
具体例
G株式会社(資本金1000万円、剰余金500万円)が、株主総会決議により剰余金300万円を資本金に組み入れた場合、資本金1300万円、剰余金200万円となります。これにより会社の信用力向上や、将来の配当余力の調整が可能になります。
2. 剰余金の配当
⑤配当の要件
ポイント:株式会社は、純資産額が300万円以上あれば、分配可能額の限度内で、いつでも、株主に剰余金の配当をすることができます。
具体例
H株式会社(純資産500万円、分配可能額200万円)は、200万円の範囲内でいつでも配当可能です。しかし、I株式会社(純資産250万円)は、純資産が300万円未満のため配当できません。この制限は、会社の最低限の財産を確保し、債権者を保護する制度です。
⑥自己株式への配当禁止
ポイント:自己株式を持っていても、会社自身に剰余金を配当することはできません。
具体例
J株式会社が発行済株式1000株のうち100株を自己株式として保有している場合、配当対象は900株のみです。自己株式100株分に配当を行うことはできません。会社が自分自身に配当することは、実質的に配当していないのと同じだからです。
⑦配当財産の種類
ポイント:配当財産の種類は、株主総会の決議で定められ、金銭以外の財産も配当できます。しかし、当該株式会社の株式・社債・新株予約権を配当財産とすることはできません。
具体例
可能な配当:K株式会社が現金の代わりに、保有する他社株式や不動産を株主に配当することは可能です。
禁止される配当:K社が自社の株式や社債、新株予約権を配当財産とすることはできません。これらを配当すると、実質的に配当していないのと同じ効果になってしまうためです。
⑧分配可能額超過配当の効果
ポイント:分配可能額を超えた剰余金の配当は、無効です。株主は、善意でも、会社に対して、交付を受けた金銭や現物の帳簿価額に相当する金銭を返還する義務を負います。
具体例
L株式会社の分配可能額が100万円だったにも関わらず、誤って150万円の配当を行った場合、超過分50万円の配当は無効です。配当を受けた株主M氏は、法的知識がなく善意であっても、超過分50万円を会社に返還しなければなりません。債権者保護を重視した厳格な制度です。
⑨取締役会による配当決定
ポイント:会計監査人設置会社は、定款で定めることにより、配当についての決定を取締役会の権限とすることができます。
具体例
N株式会社(会計監査人設置会社)が定款で「剰余金の配当は取締役会で決定する」と定めた場合、株主総会を開催せずに取締役会の決議のみで配当を実行できます。これにより機動的な配当政策が可能になりますが、会計監査人による適正な監査が前提となります。
⑩最低限の権利保障
ポイント:剰余金の配当を受ける権利及び残余財産の分配を受ける権利を全て与えない旨の定款は無効です。
具体例
O株式会社が定款で「この種類の株式は配当も残余財産分配も一切受けられない」と定めた場合、この定款条項は無効です。株主である以上、最低限の経済的利益を享受する権利は保障されなければなりません。ただし、「配当優先株式」「議決権制限株式」など、一部の権利を制限・優遇することは可能です。