譲渡担保権の実行とは?具体例でわかりやすく解説
譲渡担保権の実行とは:債務者が債務を弁済しなかった場合に、譲渡担保権者が目的物を換価(現金化)し、その代金から債権を回収する手続きのことです。処分清算型と帰属清算型の2つの方法があります。
1. 譲渡担保権の実行とは
譲渡担保権の実行とは、債務者が約束の期限までに借金を返さなかった場合に、担保として預かっている物を売却して、その売却代金から債権を回収する手続きです。
2. 実行方法の種類
譲渡担保権の実行には、以下の2つの方法があります:
実行方法 | 内容 | 特徴 |
---|---|---|
処分清算型 | 債権者が目的物を第三者に譲渡し、その売買代金を被担保債権の弁済に充て、その残額(清算金)を債務者に返還する方法 | ・第三者への売却が前提 ・市場価格での売却 ・清算金の返還義務あり |
帰属清算型 | 債権者が目的物の価値を適正に評価して、評価額と被担保債権の差額(清算金)を債務者に返還し、目的物の所有権を債権者に帰属させる方法 | ・第三者への売却なし ・適正評価が重要 ・所有権が債権者に移転 |
2.1 処分清算型の詳細
Step 1: AさんはBさんから300万円を借り、担保として自分の車(時価400万円)をBさんに譲渡担保として提供しました。
Step 2: 返済期限が到来しましたが、Aさんは借金を返済できませんでした。
Step 3: BさんはCさんに車を350万円で売却しました(処分清算型の実行)。
Step 4: Bさんは売却代金350万円から債権300万円を回収し、残額50万円(清算金)をAさんに返還します。
売却代金
350万円
債権回収
300万円
清算金返還
50万円
2.2 帰属清算型の詳細
Step 1: DさんはEさんから200万円を借り、担保として自分の絵画をEさんに譲渡担保として提供しました。
Step 2: 返済期限が到来しましたが、Dさんは借金を返済できませんでした。
Step 3: Eさんは絵画を適正に評価し、その価値を280万円と算定しました。
Step 4: Eさんは評価額280万円から債権200万円を差し引いた80万円(清算金)をDさんに支払い、絵画の所有権を取得します。
適正評価額
280万円
債権回収
200万円
清算金支払
80万円
実行方法選択のポイント:
- 処分清算型:市場性のある物、適切な買い手が見つかりやすい物に適している
- 帰属清算型:特殊な物、市場での売却が困難な物に適している
- どちらも清算金の支払いが必要(被担保債権額を超える価値がある場合)
3. 受戻権とは
受戻権の定義:譲渡担保権者が譲渡担保権の実行を完了するまでの間、債務者が債務を弁済して目的物の所有権を回復させることができる権利のことです。
不動産の譲渡担保において、清算金が支払われる前に目的不動産が債権者から第三者に譲渡された場合、原則として、債務者もしくは残債務を弁済して目的物を受け戻すことはできない(人が背信的悪意者に当たる場合であっても異ならない)
判例の意義:この判例により、処分清算型における受戻権の消滅時期が明確になりました。
4. 集合動産譲渡担保
集合動産譲渡担保とは:動産の集合体を対象として譲渡担保を設定した場合のことです。構成部分の変動する集合動産であっても、その種類・所在場所・量的範囲を指定するなどの方法により目的物の範囲が特定できます。
小売店を経営するFさんが金融機関から融資を受ける際に、店舗内の在庫商品全体を一括して譲渡担保の対象とします。在庫商品は日々売買によって入れ替わりますが、「○○店舗内の全商品」として範囲を特定することで集合動産譲渡担保が成立します。
集合動産の特徴:
- 構成部分が変動しても担保権は継続
- 新しく加わった商品にも担保権が及ぶ
- 通常の営業範囲内での処分は許容される
5. 具体例で理解する実行手続き
設定:GさんはHさんから500万円を借り、自分の所有する自動車(時価600万円)を譲渡担保として提供しました。
シナリオ1:処分清算型で実行
問題発生:Gさんが返済期限までに借金を返済できませんでした。
実行開始:HさんはIさんに自動車を550万円で売却しました。
清算:Hさんは売却代金550万円から債権500万円を回収し、残額50万円をGさんに清算金として支払います。
受戻権の消滅:HさんがIさんに自動車を譲渡した時点で、Gさんの受戻権は消滅します。
シナリオ2:帰属清算型で実行
問題発生:Gさんが返済期限までに借金を返済できませんでした。
評価:Hさんは自動車の価値を適正に評価し、580万円と査定しました。
清算金支払:Hさんは評価額580万円から債権500万円を差し引いた80万円をGさんに清算金として支払います。
所有権移転:清算金の支払いと同時に、自動車の所有権がHさんに移転します。
6. 重要判例
判例 | 主な争点 | 判決の要旨 |
---|---|---|
最高裁昭和57年1月22日 | 処分清算型における受戻権の消滅時期 | 債権者が目的物を第三者に譲渡した時点で受戻権は消滅する |
最高裁昭和62年2月12日 | 帰属清算型における受戻権の消滅時期 | 清算金の支払時または評価額通知時に受戻権が消滅する |
最高裁平成6年2月22日 | 譲渡担保権者から目的物を取得した第三者の地位 | 背信的悪意者でない限り、第三者は所有権を取得できる |
最高裁平成18年2月23日 | 集合動産譲渡担保の効力 | 通常の営業範囲内での処分は担保権者の同意があったものと推定 |
7. 過去問で確認
譲渡担保権の実行に関する次の記述のうち、判例の趣旨に照らし正しいものはどれか。
- 処分清算型における受戻権は、清算金が支払われるまで消滅しない。
- 帰属清算型においては、清算金の支払いは不要である。
- 集合動産譲渡担保においては、構成部分の変動があると担保権は消滅する。
- 譲渡担保権者は、処分清算型と帰属清算型のいずれかを選択して実行することができる。
正解:4
解説:
選択肢1は誤りです。処分清算型では、債権者が目的物を第三者に譲渡した時点で受戻権は消滅します(最判昭57.1.22)。
選択肢2は誤りです。帰属清算型においても、目的物の価値が被担保債権額を上回る場合は清算金の支払いが必要です。
選択肢3は誤りです。集合動産譲渡担保では、構成部分が変動しても担保権は継続します。
選択肢4は正しいです。譲渡担保権者は、目的物の性質や状況に応じて適切な実行方法を選択できます。
次の事例について、債務者Xの受戻権がいつ消滅するかを答えなさい。
事例:XがYから300万円を借り、自己所有の絵画(時価400万円)を譲渡担保として提供。Xが期限までに返済できなかったため、Yは以下の手続きを行った。
Case A(処分清算型):
- 4月1日:YがZに絵画を350万円で売却
- 4月10日:Yが清算金50万円をXに支払い
Case B(帰属清算型):
- 4月1日:Yが絵画を380万円と評価
- 4月10日:Yが清算金80万円をXに支払い
答え:
- Case A:4月1日(第三者への譲渡時点)
- Case B:4月10日(清算金支払時点)
8. まとめ
譲渡担保権の実行の要点整理
- 実行方法:処分清算型と帰属清算型の2つがある
- 処分清算型:第三者への売却→清算金返還(受戻権は譲渡時に消滅)
- 帰属清算型:適正評価→清算金支払い(受戻権は清算金支払時に消滅)
- 清算義務:目的物の価値が被担保債権額を上回る場合は清算金の支払いが必要
- 集合動産:構成部分の変動があっても担保権は継続
- 受戻権:実行完了まで債務者が債務を弁済して目的物を取り戻せる権利
行政書士試験対策のポイント:
- 受戻権の消滅時期の違い(処分清算型vs帰属清算型)を正確に覚える
- 清算義務は両方の実行方法で必要であることを理解する
- 集合動産譲渡担保の特殊性(構成部分の変動可能性)を把握する
- 重要判例(特に最判昭57.1.22、最判昭62.2.12)の内容を確認する
- 実行方法の選択は債権者の判断によることを理解する
覚え方のコツ:
「処分は譲渡で、帰属は支払いで」と覚えましょう。処分清算型は第三者への「譲渡」時に受戻権が消滅し、帰属清算型は清算金の「支払い」時に受戻権が消滅します。
※ 譲渡担保は判例法理が中心の分野です。条文だけでなく、重要判例の理解が試験対策では重要になります。関連する担保物権の解説も合わせてご覧いただくと理解が深まります。