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留置権とは

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留置権とは?具体例でわかりやすく解説

留置権の定義:他人の物を占有する者が、その物に関して生じた債権を有する場合に、その債権の弁済を受けるまで物を留置(引き渡さずに保持)することができる権利(民法第295条)

民法に規定されている担保物権の一つである留置権は、他の担保物権(抵当権、質権など)と比べて特殊な性質を持っています。この記事では、留置権の基本的な内容から具体例、そして試験でよく出題されるポイントまで、わかりやすく解説していきます。

1. 留置権の基本構造

留置権の基本構造 Aさん 修理業者 Bさん 時計の所有者 時計 占有 所有 債権(修理代金) 返還請求 留置権の効果: Aさんは修理代金を受け取るまで時計を引き渡さなくてよい

上の図は留置権の基本構造を示しています。時計修理業者(Aさん)が顧客(Bさん)の時計を修理し、その時計を占有しています。修理代金という債権が発生した場合、Aさんは修理代金を受け取るまで時計を返還しなくてもよいという権利(留置権)を持ちます。

2. 留置権の成立要件

留置権が成立するためには、以下の要件をすべて満たす必要があります。

留置権の成立要件 留置権 要件① 他人の物の占有 要件② 物自体に関して 生じた債権 要件③ 債権の弁済期到来 商事留置権の特則 (商法第521条)

要件①:他人の物の占有

留置権者が他人の物を適法に占有していることが必要です。自分の物には留置権は成立しません。

占有とは、物を自分の支配下に置いていることを意味します。占有が違法な場合(窃取や強奪など)には、留置権は成立しません。

【具体例】

Aさんは洋服のリフォーム店を経営しています。Bさんから洋服のリフォームを依頼されたAさんは、その洋服を適法に占有しています。この場合、Aさんは「他人の物の占有」という要件を満たします。

要件②:物自体に関して生じた債権(牽連性)

占有している物自体に関連して債権が発生していることが必要です。これを「牽連性(けんれんせい)」といいます。

牽連性は民法留置権の重要な要件です。占有している物と全く関係のない債権では留置権は成立しません。

【具体例】

成立する例:Aさんが預かったBさんの洋服のリフォーム代金

成立しない例:Aさんが以前にBさんに貸したお金(洋服とは無関係の債権)

試験対策ポイント:商事留置権(商法第521条)では、この牽連性の要件が緩和されています。商人間の取引から生じた債権であれば、占有している物と直接関係がなくても留置権が成立します。

要件③:債権の弁済期が到来していること

債権の弁済期が到来していない場合には、まだ債務者に支払義務が生じていないため、留置権は成立しません。

【具体例】

リフォーム完了後、支払期限が到来した場合には留置権が成立します。「来月末までに支払う」という約束で、まだその期日が到来していない場合には留置権は成立しません。

3. 留置権と他の担保物権との比較

特徴留置権質権抵当権成立方法法定(当事者の意思に関わらず法律上当然に発生)約定(当事者間の合意によって設定)約定(当事者間の合意によって設定)対象物の占有占有が必要占有が必要占有は不要(設定者が使用継続可)優先弁済権なし(単なる引渡拒絶権のみ)ありあり債権と目的物の関係牽連性が必要(物自体に関して生じた債権)牽連性は不要牽連性は不要登記・対抗要件占有の継続占有の継続登記
留置権と他の担保物権の比較 留置権 法定担保物権 占有必須 牽連性必要 優先弁済権なし 単なる引渡拒絶権 質権 約定担保物権 占有必須 牽連性不要 優先弁済権あり 私的実行可 抵当権 約定担保物権 占有不要 牽連性不要 優先弁済権あり 登記必要

試験対策ポイント:留置権は、他の担保物権と比較して「優先弁済権がない」点が最も重要な特徴です。単に物の引渡しを拒絶できるだけで、その物を競売にかけて優先的に弁済を受ける権利はありません。

4. 留置権の効力

①物の留置(引渡拒絶権)

留置権の主たる効力は、債権の弁済を受けるまで目的物の引渡しを拒むことができることです。ただし、目的物を使用したり、収益(賃料など)を得たりする権利は原則としてありません。

4. 留置権の効力

②善管注意義務

留置権者は、留置物を善良な管理者の注意をもって保管する義務を負います(民法第298条)。善管注意義務に違反して物を損傷させた場合は、損害賠償責任を負う可能性があります。

【具体例】

時計修理店のCさんが、修理代金未払いを理由に顧客Dさんの高級時計を留置していました。しかし、保管中に防湿対策を怠ったため、時計の内部が湿気でさびついてしまいました。この場合、Cさんは善管注意義務違反による損害賠償責任を負います。

③留置権の不可分性

留置権は、債権の全部の弁済を受けるまで、目的物の全部について行使できます(民法第296条)。これを「不可分性」といいます。

留置権の不可分性 ✓ 正しい理解 ✗ 誤った理解 全部の支払いで全部返還 一部 残り
【具体例】

Eさんは洋服のリフォーム店に3着の洋服を出し、合計3万円の修理代金が発生しました。Eさんが「1万円支払ったから1着だけ返してほしい」と言っても、店主は「3万円全額の支払いがあるまで3着すべてを留置する」ことができます。

④果実収取権

留置権者は留置物から生じる果実(天然果実や利息などの法定果実)を収取し、まず債権の利息に、次に元本に充当することができます(民法第297条)。

【具体例】

Fさんは賃料未払いを理由にGさんが置いていった乳牛を留置しています。この乳牛が生産する牛乳(天然果実)を、Fさんは収取して売却し、その代金を未払い賃料に充当することができます。

⑤時効中断効

留置権の行使は債権の消滅時効を中断(更新)する効果があります(民法第147条)。

⑥相殺禁止

留置権を主張されている債務者は、自分が留置権者に対して持つ債権との相殺を主張して、留置権の消滅を求めることはできません(民法第299条)。

試験対策ポイント:留置権の効力に関して「優先弁済権がない」「不可分性がある」「果実収取権がある」「相殺禁止がある」の4点は必ず押さえておきましょう。

5. 民法上の留置権の具体例

留置権が成立する具体的な事例をいくつか見ていきましょう。

留置権の具体例 例1:修理代金 修理業者 修理代金 時計の修理代金の支払いまで その時計を留置できる 例2:保管料・運送料 倉庫 保管料 倉庫業者は保管料の支払いまで 寄託物を留置できる 例3:請負報酬 大工 家具 報酬 大工は報酬の支払いまで 製作した家具を留置できる 例4:不当利得返還請求 Aさん Bさん 他人の物を善意で改良した場合 費用償還まで物を留置できる
【留置権が成立する例】
  1. 修理代金:時計修理業者が修理代金の支払いを受けるまで、修理した時計を留置できる
  2. 保管料・運送料:倉庫業者や運送業者が料金の支払いを受けるまで、預かった荷物を留置できる
  3. 請負報酬:大工が報酬の支払いを受けるまで、製作した家具を留置できる
  4. 不当利得返還請求権:他人の物を善意で改良した場合、費用償還請求権に基づき、その物を留置できる
  5. 遺失物拾得者の費用償還請求権:拾った物の保管に要した費用の償還を受けるまで、その物を留置できる
【留置権が成立しない例】
  1. 全く関係のない債権:Aさんが過去にBさんに貸したお金を理由に、たまたま預かっているBさんの物を留置することはできない
  2. 不法占有:窃取した物について留置権を主張することはできない
  3. 自分の所有物:自分の所有物には留置権は成立しない
  4. 公共の用に供する物:道路、公園など公共の用に供する公有財産には留置権は成立しない

6. 商事留置権(商法第521条)

商人間の商行為によって生じた債権がある場合、商人は相手方の所有する物を占有していれば、その債権と物の間に牽連性がなくても留置権を行使できます。これを商事留置権といいます。

民法上の留置権 vs 商事留置権 民法上の留置権 牽連性が必要 物自体に関して生じた債権 でなければ成立しない 物 債権 関連性 例:修理代金と修理した物 商事留置権 牽連性不要 商人間の商行為によって 生じた債権であれば成立 物 債権 関連性不要 例:過去の売買代金と現在占有中の物

商事留置権の成立要件:

  1. 当事者が双方とも商人であること
  2. 債権が商行為によって生じたものであること
  3. 債権者が債務者の所有物を占有していること
  4. 債権の弁済期が到来していること
【商事留置権の具体例】

商人Aは商人Bに対して過去の商品売買による代金債権を有しています。後日、別の取引でAがBの商品を占有することになりました。この場合、Aは新たに占有することになった商品について、過去の売買代金債権を理由に商事留置権を主張できます。通常の民法上の留置権では、占有物と債権に牽連性がない(関連性がない)ため成立しませんが、商事留置権では牽連性が不要なため成立します。

試験対策ポイント:商事留置権と民法上の留置権との最大の違いは「牽連性の要否」です。商事留置権では、債権と物との間に直接の関連性がなくても成立する点が特徴です。

7. 留置権の消滅事由

留置権は以下の場合に消滅します。

留置権の消滅事由 留置権の消滅 ①債権の消滅 (弁済・相殺・時効など) ②占有の喪失 (引渡し・盗難など) ③担保の提供 (民法第301条) ④留置権の放棄 (明示・黙示)

①債権の消滅

留置権は被担保債権の弁済、相殺、免除、時効などによって債権が消滅すると、それに伴って消滅します。

②占有の喪失

留置権者が留置物の占有を失うと、留置権も消滅します。ただし、盗難・強奪などで占有を失った場合は、一年以内に占有回収の訴えを提起すれば留置権は消滅しません(民法第298条の準用する第193条)。

③担保の提供

債務者が相当の担保を提供したときは、留置権は消滅します(民法第301条)。例えば、債権額に相当する保証金を提供するなどの場合です。

④留置権の放棄

留置権者が明示的または黙示的に留置権を放棄した場合は消滅します。例えば、債権者が自主的に目的物を債務者に返還した場合などです。

【具体例:担保提供による消滅】

車修理工場のHさんは、Iさんの車を修理して修理代金50万円が発生しました。Iさんは現在修理代金を支払えないが、車を使用する必要があるため、50万円相当の担保(現金や有価証券など)をHさんに提供しました。この場合、担保提供により留置権は消滅し、Hさんは車をIさんに返還しなければなりません。

8. 特別法上の留置権

民法以外にも、特別法で規定されている留置権があります。

種類根拠法内容商事留置権商法第521条商人間の取引から生じた債権について、牽連性不要で留置権が成立工場抵当法上の留置権工場抵当法第7条工場の機械等の修繕者が修繕代金債権について留置権を行使可能自動車抵当法上の留置権自動車抵当法第5条自動車の修繕者が修繕代金債権について留置権を行使可能航空機抵当法上の留置権航空機抵当法第9条航空機の修繕者が修繕代金債権について留置権を行使可能

試験対策ポイント:商事留置権と民法上の留置権の違いは重要です。また、工場抵当法、自動車抵当法、航空機抵当法では、修繕者の留置権が抵当権に優先する特例があることに注意しましょう。

9. 過去の試験問題と解説

【過去問例1】

留置権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例に照らし、誤っているものはどれか。

  1. 留置権は、不動産について成立しない。
  2. 留置権者は、善良な管理者の注意をもって留置物を保存する義務を負う。
  3. 留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用することができない。
  4. 留置権者は、留置物から生じる果実を収取し、債権の弁済に充当することができる。
  5. 留置権は、債務者が相当の担保を提供したときに消滅する。

正解:1

解説:

1. 誤りです。留置権は不動産にも成立します。民法上、留置権の成立対象物を不動産か動産かで区別していません。

2. 正しいです。民法第298条により、留置権者は善良な管理者の注意をもって留置物を保存する義務を負います。

3. 正しいです。留置権は単なる引渡拒絶権であり、使用権は原則として含まれません。

4. 正しいです。民法第297条により、留置権者は果実収取権を有します。

5. 正しいです。民法第301条により、債務者が相当の担保を提供したときは留置権は消滅します。

【過去問例2】

Aが所有する自動車をBが預かり、修理した。その修理代金についてのBの留置権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例に照らし、誤っているものはどれか。

  1. Bは、修理代金の債権全額について、自動車全体を留置することができる。
  2. Bは、修理代金が弁済されるまで、Aの承諾がなくても、自動車を使用することができる。
  3. Bは、自動車から生ずる果実を収取して、まず債権の利息に、次に元本に充当することができる。
  4. Bが自動車の留置を継続している間は、修理代金債権について消滅時効は進行しない。
  5. Aは、相当の担保を提供して、自動車の留置を免れることができる。

正解:2

解説:

1. 正しいです。民法第296条により、留置権は不可分であり、債権の全部の弁済を受けるまで、目的物の全部を留置することができます。

2. 誤りです。留置権者は、債務者の承諾がなければ留置物を使用することはできません。留置権は単なる引渡拒絶権です。

3. 正しいです。民法第297条により、留置権者は果実収取権を有し、収取した果実をまず債権の利息に、次に元本に充当することができます。

4. 正しいです。留置権の行使は債権の消滅時効を中断(更新)する効果があります(民法第147条)。

5. 正しいです。民法第301条により、債務者が相当の担保を提供したときは留置権は消滅します。

10. 留置権の実務上の注意点

留置権の実務上の注意点 注意点① 自力救済の禁止 留置権は裁判上の権利であり、 強引に物を取り戻したり、 勝手に処分することはできない 注意点② 優先弁済権がない 留置権は物を留めるだけで 競売して優先的に弁済を 受ける権利はない 注意点③ 善管注意義務 留置物を適切に保管し、 損傷させた場合は 損害賠償責任が生じうる 注意点④ 占有の継続 占有を失うと留置権も 消滅するため、一時的に 返還する場合は注意が必要

実務上、留置権を行使する際には以下の点に注意が必要です:

①自力救済の禁止

留置権はあくまで法的な権利であり、債務者が無理やり物を取り返そうとした場合でも、力ずくで阻止することは自力救済として禁止されています。警察や裁判所など適切な機関を通じて解決を図るべきです。

②優先弁済権がないことの理解

留置権は、物を留置することで間接的に債務者に弁済を促す権利であり、担保物を売却して優先的に弁済を受ける権利(優先弁済権)はありません。債務者が長期間にわたり弁済せず、留置を継続するのが困難な場合は、別途訴訟を提起するなどの対応が必要です。

③善管注意義務の遵守

留置権者は善良な管理者の注意をもって留置物を管理する義務があります。物の特性に応じた適切な保管を行わなければならず、義務違反があれば損害賠償責任を負う可能性があります。

④占有の継続に関する注意

留置権の存続には占有の継続が必要です。一時的に物を返還する場合(試運転や試着など)は、占有を失わないような措置を講じる必要があります。

11. まとめ

留置権のポイント:

  1. 定義:他人の物を占有する者が、その物に関して生じた債権を有する場合に、その債権の弁済を受けるまで物を留置(引き渡さずに保持)することができる権利
  2. 成立要件:他人の物の占有、物自体に関して生じた債権(牽連性)、債権の弁済期到来
  3. 効力:物の留置(引渡拒絶権)、果実収取権、不可分性、善管注意義務
  4. 特徴:法定担保物権、優先弁済権がない、占有が必要
  5. 消滅事由:債権の消滅、占有の喪失、担保の提供、留置権の放棄
  6. 主な種類:民法上の留置権、商事留置権(牽連性不要)

行政書士試験対策のポイント:

  1. 留置権と質権・抵当権との違いを明確に理解する
  2. 民法上の留置権と商事留置権の違い(特に牽連性の要否)を押さえる
  3. 留置権の効力(特に不可分性、優先弁済権がないこと、果実収取権)を理解する
  4. 留置権の成立要件(特に「物自体に関して生じた債権」という牽連性の要件)を理解する
  5. 担保提供による消滅など、消滅事由を把握する

※内容について質問や補足があれば、コメント欄にお寄せください。担保物権の他の解説も合わせてご覧いただくと理解が深まります。

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