近年、日本では共働き世帯が増加傾向にあります。夫婦がともに収入を得ることで生活水準を向上させる一方、万が一のリスク対策も両者の状況を考慮して準備する必要があります。特に遺族年金と生命保険については、共働き世帯ならではの注意点があります。この記事では、共働き世帯が知っておくべき遺族年金と生命保険の重要ポイントを解説します。
目次
- 共働き世帯の遺族年金の基本
- 共働き世帯特有の遺族年金の注意点
- 共働き世帯の生命保険選びのポイント
- 収入バランスによる生命保険の考え方
- 共働き世帯におすすめの保険の組み合わせ
- まとめ:リスク管理計画の見直しタイミング
共働き世帯の遺族年金の基本
遺族年金は、国民年金や厚生年金の加入者が亡くなった場合に、その遺族に支給される公的な給付金です。共働き世帯の場合、夫婦それぞれが年金制度に加入しているため、受給資格や金額に関して特別な考慮が必要です。
遺族基礎年金
国民年金から支給される遺族基礎年金は、亡くなった被保険者によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」に支給されます。ここでいう「子」とは、18歳到達年度の末日までの子(障害がある場合は20歳未満)を指します。
共働き世帯の注意点:共働きの場合、残された配偶者の収入によっては「生計維持関係」の認定基準を満たさない可能性があります。
遺族厚生年金
厚生年金加入者が亡くなった場合に支給される遺族厚生年金は、被保険者の死亡当時、その方によって生計を維持されていた遺族に支給されます。対象となる遺族は、配偶者、子、父母、孫、祖父母で年齢や障害の有無などの条件があります。
重要ポイント:共働き世帯の場合、配偶者も厚生年金に加入していることが多いため、自身の老齢厚生年金と遺族厚生年金の調整(併給調整)が発生します。
共働き世帯特有の遺族年金の注意点
1. 生計維持要件の確認
遺族年金を受給するためには「生計維持関係」があることが条件ですが、共働きの場合は注意が必要です。
- 遺族の年収が850万円未満であること
- 遺族の年収が、死亡した被保険者の年収の2分の1以上であること
共働き世帯では、配偶者自身の収入が高い場合、この要件を満たさないことがあります。
2. 遺族厚生年金と自身の老齢厚生年金の選択
共働き世帯の場合、配偶者自身も厚生年金に加入していることが多く、将来的に自分の老齢厚生年金を受け取ることができます。この場合、以下のような選択肢があります:
- 遺族厚生年金のみを受給
- 自身の老齢厚生年金のみを受給
- 自身の老齢厚生年金と遺族厚生年金の一部(経過的寡婦加算など)を受給
ポイント:一般的に、遺族厚生年金と自分の老齢厚生年金を比較し、金額が大きい方を選択するケースが多いですが、個々の状況によって最適な選択は異なります。
3. 共働き世帯の場合の受給額シミュレーション
例えば、夫(年収600万円)と妻(年収400万円)の共働き世帯で、夫が亡くなった場合:
- 妻には自身の老齢厚生年金(将来的に約年間120万円と仮定)の受給権がある
- 夫の遺族厚生年金は約年間180万円と仮定
- 子供がいる場合は遺族基礎年金も加算
この場合、妻は自分の老齢厚生年金を受け取るよりも夫の遺族厚生年金を受け取る方が有利ですが、子供が成人すると遺族基礎年金が打ち切られることも考慮する必要があります。
共働き世帯の生命保険選びのポイント
共働き世帯の場合、それぞれが収入源となるため、生命保険の考え方も単身世帯や専業主婦(夫)世帯とは異なります。
1. 収入比率に応じた保険金額の設定
夫婦の収入バランスによって、必要な死亡保障額は変わってきます。例えば:
- 収入がほぼ同等の場合:互いに同程度の保障額を検討
- 収入差が大きい場合:収入の多い配偶者の保障額を高めに設定
具体例:夫の年収が800万円、妻の年収が300万円の場合、夫の死亡保障は妻よりも高く設定する必要があります。
2. 家事労働の価値も考慮する
共働きであっても、家事や育児の負担が均等でないケースが多いです。特に子育て世代の場合、家事や育児を担う配偶者が亡くなった場合の家事代行サービスなどのコストも考慮すべきです。
3. 子どもの教育資金の確保
子どもがいる共働き世帯では、教育資金の確保も重要な要素です。収入の多い配偶者が亡くなった場合でも教育計画に影響が出ないよう、学資保険や教育資金特約付きの生命保険も検討しましょう。
収入バランスによる生命保険の考え方
共働き世帯の収入バランスによって、最適な保険設計は変わります。以下、典型的なパターン別のアドバイスです。
ケース1:夫婦の収入がほぼ同等の場合
- 両者とも同程度の死亡保障を準備
- それぞれの老後資金も個別に準備
- 世帯の固定費を折半している場合は、固定費の負担割合に応じた保障設計も検討
ケース2:主たる収入者と補助的収入者の場合
- 主たる収入者の死亡保障を手厚く
- 補助的収入者も基本的な保障は必要
- 収入の少ない配偶者が家事や育児も担っている場合は、その労働価値も保険金額に反映
ケース3:共働きだが一方が非正規雇用の場合
- 正規雇用者の死亡保障を充実させる
- 非正規雇用者も最低限の保障は確保
- 雇用の安定性も考慮した保険設計
共働き世帯におすすめの保険の組み合わせ
1. 定期保険+収入保障保険
- 定期保険:一定期間内に死亡した場合に一時金が支払われる
- 収入保障保険:残された家族に毎月一定額が支払われる
共働き世帯では、一方の収入がなくなっても残された配偶者の収入があるため、必要保障額が専業主婦(夫)世帯より少なくなる傾向があります。そのため、比較的割安な定期保険や収入保障保険が適しています。
2. 医療保険・がん保険の個別加入
共働きの場合、夫婦それぞれが職場の団体保険に加入できる可能性があります。団体保険は個人で加入するよりも保険料が安いケースが多いので、有効活用しましょう。
3. 個人年金保険の検討
公的年金に加えて、個人年金保険で老後の備えを強化することも重要です。特に、共働き世帯では夫婦それぞれが個人年金に加入することで、老後の収入源を多様化できます。
まとめ:リスク管理計画の見直しタイミング
共働き世帯の遺族年金と生命保険は、以下のタイミングで見直すことをおすすめします:
- 転職・昇進時:収入や福利厚生が変わる際に再検討
- 家族構成の変化:出産、子供の独立など
- 住宅ローン契約時:ローン金額に応じた保障の見直し
- 年齢による保険料の変化:年齢が上がると保険料が高くなるため、早めの加入が有利
- 年金制度改正時:公的年金の制度変更に合わせて民間保険も調整
共働き世帯は、両者の収入を活かした豊かな生活設計ができる反面、リスク管理も両者の状況を踏まえた複雑な設計が必要です。専門家のアドバイスを受けながら、最適な保障設計を行いましょう。
※この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の状況に応じた具体的なアドバイスではありません。実際の遺族年金の受給条件や生命保険の選択に関しては、年金事務所や保険の専門家にご相談ください。
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